研究内容
研究方針
超高齢社会に突入した我が国では、今後生体機能の低下や喪失に対応した生体機能再建用材料システムの高度化が期待されています。医用材料工学分野では、チタン・チタン合金、Co-Cr合金やNiTiなどの生体用金属材料の表面・組成/組織制御を通した生体埋入デバイス(インプラント)の高機能化や耐久性向上に関する研究を展開しています。生体環境下における金属系およびセラミックス系生体材料の表面・界面反応制御に関する基礎的研究とともに、抗ウイルス能・抗菌能と骨形成能を発現させる材料開発や表面創製、人工関節・ステント用材料開発などの応用研究を歯学研究科,加齢医学研究所と共同で推進しています。
研究の必要性
総人口の29.4%が65歳以上(2020年、総務省人口推計)という超高齢社会に突入した日本はもちろん世界的にも高齢者人口は増加の一途を辿っています。これらを背景に2019年の世界医療機器市場は50兆円を越え、今後益々増加することが確実視されています。
事故や疾病によるものも含めて、生体機能の低下や喪失に苦しむ高齢者の「生活の質の維持」のために、失われた生体機能を再建するための医療技術への関心が高まっています。特に人工関節、人工歯根や血管内ステント(下図右)などの生体内で使用される医療器具(インプラント)は日本の政策でもある「健康寿命の延伸」の達成にも関係しています。インプラントの更なる高機能化・高安全化を図るためには、それらを構成するバイオマテリアルにまで遡った検討が必要です。
整形外科分野のインプラントの9割に金属系バイオマテリアルが使用されています。金属製インプラントの優位性はどこにあるのでしょうか?生体内という、破損した場合に取り出すことが容易ではない領域で用いられるインプラントには、金属材料の有する優れた強度と延性に代表される信頼性・耐久性が必要とされます。
金属系バイオマテリアルにはチタン・チタン合金、Co-Cr合金、NiTiなどがあります。チタンは骨と結合する特性、オッセオインテグレーション、を有しているので人工関節や人工歯根に、コバルト-クロム合金やNiTiはステントに用いられています。金属系バイオマテリアルはインプラントの機能向上・安全性向上を通して、「生活の質の維持」と「健康寿命の延伸」に寄与することが期待されています。
テーマ
- インプラント用チタン表面の抗菌・抗ウイルス機能化(Agイオン放出リン酸カルシウムや可視光応答型光触媒活性TiO2を利用した抗菌能・抗ウイルス能を有する表面改質層の作製と評価を行う)
- 生体活性ガラスコーティング膜の作製と生体適合性評価(軟組織適合性と抗菌性を両立した生体活性ガラスをゾルゲル法やスパッタリング法により作製するとともにその生体適合性評価を行う)
- ステント用新規Co-Cr合金の設計と特性評価(循環器疾患治療用ステントの小径化を目的に新規Co-Cr合金を設計するとともにその特性評価を行う)
- 生体用Co-Cr-Mo合金の晶析出物制御と力学特性(人工関節などに用いられるCo-Cr-Mo合金の晶析出物の形成/溶解と熱処理を組み合わせて力学特性向上を図る)
- 自己拡張型ステント用NiTiの非金属介在物と疲労特性(超弾性を有するNiTi中の非金属介在物制御を通した疲労特性の向上を図る)
- 水素プラズマを用いたチタン融体からの酸素除去プロセス開発(水素プラズマ溶解を基礎とした手法によりチタン融体からの効率的な酸素除去プロセスを構築する)
- チタン合金の表面反応およびTiO2膜に関する実験的・計算材料学的研究(チタン合金表面の酸化物形成反応とTiO2中の軽元素不純物に着目し、実験的な分析評価、第一原理計算、分子動力学シミュレーションを行う